こんにちは!化学プラント現場マンのいけちゃんです。
今日紹介するトラブルは、タンク内のドレンを重力によって下層のタンクに送る際に、
ドレンが抜けたり抜けなかったりと安定的なドレン移送ができない現象に関してです。
原因は、送り先のタンクの気相側が逆流することでドレン排出ができなくなることにあります
この現象について順を追って説明していきます。
パターン(1) 上タンクの気相圧力≧下タンクの気相圧力の場合
<現象の説明>
上タンクのドレンが流れ出す際に、周辺の気相を巻き込んで流出します。
つまりドレンは気泡(ボイド)を含んだ状態です。
これが下タンクに流入すると気泡が下タンクの気相部分でたまり始めます。
下タンクの気相側にベント配管がついていない場合、下タンクの気相側圧力が上昇しドレン送液配管を逆流します。
これにより、上タンクドレン排出口の二次側圧力が一次側圧力より高くなり、ドレンの排出が抑制または無くなります。
その後、気泡が上タンクに逆流しえて、下タンク気相側圧力が低下すると、再度ドレンは流れ始めます。
そして、ドレンが流れる→気相逆流→ドレン流れなくなる→気相圧低下→ドレン流れるを繰り返すことになります。
こうして「タンクに高低差あるから確実にドレンは流れるだろう」という直感に反する事象が起きます。
<解決方法>
解決方法は二つあります
①ドレン送液配管のサイズUpで気相のセルフベントを実現する
②下タンク気相にベント配管を取り付ける
①ドレン送液配管のサイズUpでセルフベントを実現する
単純にドレン送液配管の直径を増すことで、逆流する気相の通り道を確保する方法です
②下タンク気相にベント配管を取り付ける
下タンク気相側にベント配管を取り付けて、気相側の圧力上昇を防ぐ方法です
下タンクと上タンクの通常時気相圧力が同じ場合は、ベント配管を上タンク気相側に接続する方法もあります
パターン(2) 上タンクの気相圧力<下タンクの気相圧力の場合
例でいうと
上タンクの気相側が負圧(陰圧)で、下タンクの気相側が正圧(陽圧)のような場合です。
この場合、ドレンが流れ始めた後、一度気相側が逆流するとドレン排出が困難になります。
再度ドレンが流れ始めるには、以下の二点が考えられます。
・上タンクの液位が高くなって水頭圧力>下タンク気相側圧力となった場合
・下タンク気相側圧力が減少した場合
なかなか難易度が高いですが、解決策を考えていきます
<設備的解決>
こうなったらドレンを強制的に排出する方法を考えましょう
よって、
上タンクドレン排出配管に真空ポンプやポンプ機能を内蔵したスチームトラップ(パワートラップ)を取り付けます
これにより、ドレンに動力を加えることで強制的に排出します
<運転方法による対策>
本当はすぐにでも真空ポンプやパワートラップを導入したいけど、予算取りして発注して設置して…となると1年後になっちゃう
その間どうしよう?という場合、運転員の力でなんとかしないといけません。
条件は限られますし不確実ですが、何とかこの問題の対処法を考えていきます。
①ドレン排出口に流量調整弁が設置されている場合
ドレン量調整弁の開度を絞り、逆流した下タンク気相圧力を減圧し、圧力逆転を無理やり起こしてドレンを排出させることを狙った運転操作の例を紹介します。
この操作は流体の流路が細くなると流速は上昇するが圧力を失う性質を利用します。
この性質は流体力学の連続の式とベルヌーイの定理で説明できます
連続の式は
流量Qは配管断面積A×流速vで求まり、途中で配管の大きさが変わっても流れる流量は一定であることを示した式です。
これより、流量調整弁の開度を小さくする=配管径が小さくなることで、流速が上がることがわかります
具体例だと、ホースの先端をつぶすことで水が勢いよく噴射する現象と同じです。
ベルヌーイの式は、
流体のエネルギーが保存されることを示した式です。
流速vによるエネルギー + 圧力Pによるエネルギー + 高さZによるエネルギー は一定になることを示します
ここで、ドレン量調整弁の開度を小さくするとどうなるか考えましょう。
弁の開度を小さくすると、連続の式より流体の流速vが上がります。
ベルヌーイの式は常に一定のため
流速vが上昇し、流速によるエネルギーが増加すれば、その分、圧力エネルギー(P)が減少します。
(Zは0としています)
これにより、逆流した下タンク気相を減圧することができます。
ドレン排出部圧力を逆転させ、ドレンを送り出すことが可能(となるかも)しれません。
いつも流量調整弁開度100%で運転しているなら10%程度に一気に開度を絞ると効果があるかもしれません。
②下タンク液位を一気に変動させることができる場合
下タンク液をポンプなどで送液しており、ポンプの出力を上げることで一気にタンク液位を減少させることができる場合に適用できます。
運転操作の狙いは、下タンク液位を急激に下げることで、気相を一気に膨張させ、気相側圧力を減圧し、圧力逆転によりドレンを排出させることです。
もうお分かりだと思いますが、具体的な手法として
下タンク液移送ポンプを一気に出力MAXで運転し、液位を下げて気相を膨張させます。
注意点は、
タンク液位が急減少することにより、ポンプ吸い込み圧力が減少して、キャビテーションを起こす可能性があります。
ポンプには間違いなくダメージを与える方法になります
まとめ
このトラブルは設備的解決方法だと、ベント管の設置やポンプの設置で解決することが可能です。
しかし、設置には時間がかかる場合がほとんどです。
その間も、運転員は応急対策でなんとか生産活動を続けていくしかありません。
まともに動かない設備をなんとか動かすのが、運転員の仕事でもあります。
この記事が少しでも参考になれば幸いです。
ありがとうございました。
参考資料